一般的な皮ふ疾患(保険診療)

アトピー性皮ふ炎

1、アトピー性皮ふ炎とはどんな病気?


みなさんは皮ふ炎が続き、心配で病院を受診した時に、「子供(私)は、アトピーでしょうか?」と尋ねることがあるかと思います。


その際、「かもしれませんね」「アトピーっぽいですね」などと答えられた経験があるかもしれません。


日本皮膚科学会では、こういった症状のある患者さんをアトピー性皮ふ炎と診断しましょうと定義しています。


詳細は、「アトピー性皮膚炎の定義・診断基準」に記載されていますが、簡単にご説明しますと




  1. かゆい

  2. 特徴的な場所に皮疹が出る

  3. 湿疹が長く続く


の3つが揃えばアトピー性皮ふ炎の可能性が非常に高くなります。


ただし、最終的には採血検査や他の皮ふ病との鑑別が必要になりますので、受診・ご相談ください。



2、アトピー性皮ふ炎はなぜ起きる?


いまだにアトピー性皮ふ炎の発症メカニズムは十分には分かっていませんが、図のように3つの原因が関連し合っていると考えられています。


アトピーのメカニズムの図
免疫異常

遺伝子異常や皮ふのバリア異常に伴って、皮ふ全体の免疫異常が起こります。


特にアトピー性皮ふ炎においては、Th2細胞(ヘルパーT細胞)と呼ばれるリンパ球が活性化しています。


この細胞が分泌するIL(インターロイキン)と呼ばれる炎症性タンパクがアトピー性皮ふ炎の症状を引き起こしていると考えられています。


IL-4、IL-13、IL-31などが特に重要です。



かゆみ異常

Th2細胞が産生する炎症性タンパクは、皮ふのかゆみも引き起こします。


かゆいため、ひっかき癖ができ皮ふに傷をつけてしまい、皮ふバリアが破壊されてしまいます。


また、アトピー性皮ふ炎の患者さんは、ちょっとした刺激でも痒みを感じ、かゆみ過敏になっていると考えられます。



皮ふバリア破壊

アトピー性皮ふ炎特有の異常として、皮ふバリア機能の低下(乾燥しやすい、細菌感染しやすい)がみられます。


ひっかき癖やフィラグリン※というタンパクの低下によって皮ふバリア破壊・低下がおき、細菌やアレルギー物質が侵入しやすくなります。


侵入した細菌やアレルギー物質は、免疫異常を引き起こし、炎症性タンパクを増加させます。


※フィラグリンは分解されてアミノ酸などの天然保湿因子と言われる皮膚の保水成分に変化します。


フィラグリンの異常・低下がある人は、手のシワが深いひとが多いようです。


アトピーの方の母指球の図

このように免疫異常→かゆみ→皮ふバリア異常→免疫異常・・・と悪循環になりアトピー性皮ふ炎を引き起こしていると考えられています。



3、アトピー性皮ふ炎の症状と経過について


アトピー性皮ふ炎の症状ですが、基本的には湿疹なので、「皮ふが赤くなる、ブツブツができる、ジュクジュクする、カサカサする、かたくなる」などで、かゆみも伴います。


また、湿疹は体の左右で同じように現れやすく、おでこ、目の周り、口の周り、首、手足の関節、胸や背中などに現れます。


このような症状が一時的なものではなく、長期間(ガイドラインでは1歳未満では2ヵ月以上、1歳以上では6ヵ月以上)続く場合にアトピー性皮ふ炎と診断されます。


皮疹が出る場所は、年齢によって異なります。


アトピーの年齢ごとの段階を表す表

4、アトピー性皮ふ炎の検査について


皮ふの状態をみるだけでも、ある程度、重症度は判断できますが、治療効果や今後の治療の目標を立てるために血液検査を行うことがあります。


IgE、好酸球数、TARCなどが保険適応となっています。



TARC(thymus and activation-regulated chemokine)

アトピー性皮ふ炎では皮ふ表面の様々な刺激によって角化細胞から産生され、Th2リンパ球を皮ふ病変部に呼び寄せることで炎症を増悪させます。


1カ月に1度検査が可能です。



IgE

アトピー性皮ふ炎では様々な物質に対してIgEと呼ばれる抗体を産生しやすく、血液検査でも様々な項目(ダニやハウスダスト)でIgE値(抗原特異的IgE値)が高くなる傾向があります。


3カ月に1度検査が可能です。



5、アトピー性皮ふ炎の治療について


悪化因子をできるだけ取り除くことで、皮ふの炎症が少しずつよくなり、薬を塗る回数が減ったり、保湿剤の外用のみで、症状が落ち着いた状態を保つことができるようになります。


そのためには、以下の治療・ケアが重要です。


①皮ふの炎症を抑える治療 → 外用療法・内服療法・注射療法・紫外線療法


②普段からのスキンケア → 保湿剤の外用


③日常生活における悪化因子の除去


それぞれについて詳しく説明していきます。



①皮ふの炎症を抑える治療


外用療法

【ステロイド外用剤】

ステロイド外用剤には弱いものから強いものまで5段階に分類されており、皮疹の重症度や部位によって塗る薬の強さが変わってきます。


ステロイド外用剤についてはその副作用を心配される患者様もいらっしゃると思いますが、正しい使い方をしていれば問題はありません。


逆に不適切な使い方では、リバウンドなどを起こしてしまいます。


当院ではその点には十分配慮して、塗り方や回数についてもしっかり説明しております。



【タクロリムス外用剤(プロトピック軟膏®)】

タクロリムス外用剤(プロトピック軟膏®)は免疫抑制剤が含まれた軟膏ですが、ステロイドとは違う機序で炎症を抑える作用があります。


また、特徴としては皮ふの悪い部位からしか吸収されないため、長期間使用しても副作用が出にくいことが挙げられます。


ステロイド外用と一緒に使用・使い分けすることによりステロイドの副作用を軽減させることもできます。



【デルゴシチニブ外用剤(コレクチム軟膏®)】

新しい治療薬としてJAK阻害剤であるコレクチム軟膏®があります。


こちらもステロイド外用剤とは違う抗炎症作用をもっているため注目されています。


ステロイド外用と一緒に使用・使い分けすることによりステロイドの副作用を軽減させることもできます。



【ジファミラスト外用剤(モイゼルト軟膏®)】

さらに、新しい治療薬としてPDE4阻害剤であるモイゼルト軟膏®があります。


こちらもステロイド外用剤とは違う抗炎症作用をもっているため注目されています。


ステロイド外用と一緒に使用・使い分けすることによりステロイドの副作用を軽減させることもできます。



内服療法

【シクロスポリン内服(ネオーラル®)】

強力な免疫抑制剤で、ステロイド外用やタクロリムス外用を継続しても症状が改善しないような15歳以上の中等度~重症患者さんが適応となります。


皮ふ症状の改善、かゆみの軽減に対する効果はとても高いですが、血圧上昇や腎機能障害などの副作用が出現する場合があります。



【バリシチニブ内服(オルミエント®)】

以前からリウマチという病気に使われていた免疫抑制剤で、ステロイド外用やタクロリムス外用を継続しても症状が改善しないような15歳以上の中等度~重症患者さんが適応となります。


皮ふ症状の改善、かゆみの軽減に対する効果はとても高く、即効性もあります。



【ウパダシチニブ内服(リンヴォック®)】

以前からリウマチという病気に使われていた免疫抑制剤で、ステロイド外用やタクロリムス外用を継続しても症状が改善しないような12歳以上の中等度~重症患者さんが適応となります。


皮ふ症状の改善、かゆみの軽減に対する効果はとても高く、即効性もあります。



【アブロシチニブ内服(サイバインコ®)】

世界に先駆けて、日本で使用できるようになった免疫抑制剤で、ステロイド外用やタクロリムス外用を継続しても症状が改善しないような12歳以上の中等度~重症患者さんが適応となります。


皮ふ症状の改善、かゆみの軽減に対する効果はとても高く、即効性もあります。


これら内服薬は、高額療養費制度などが必要になる場合もありますので、ご相談ください。


内服薬を組み合わせることで、ステロイドの使用量が減り、ステロイドの副作用を軽減させることもできます。



注射療法

【デュピルマブ(デュピクセント®)】

アトピー性皮ふ炎の重要な炎症性タンパクIL-4とIL-13に対する完全ヒトモノクローナル抗体注射薬です(IL-4、IL-13の作用を抑える薬剤)。


他治療を継続しても症状が改善しない6か月以上の中等症~重症患者さんが適応となります。



【ネモリズマブ(ミチーガ®)】

アトピー性皮ふ炎で痒みを引き起こす重要なタンパクIL-31に対する完全ヒトモノクローナル抗体注射薬です(IL-31の作用を抑える薬剤)。


他治療を継続しても症状が改善しない13歳以上の中等症~重症患者さんが適応となります。



【トラロキヌマブ(アドトラーザ®)】

アトピー性皮ふ炎で痒みを引き起こす重要なタンパクIL-13に対する完全ヒトモノクローナル抗体注射薬です(IL-13の作用を抑える薬剤)。


他治療を継続しても症状が改善しない15歳以上の中等症~重症患者さんが適応となります。


症状が改善すれば、ステロイドの使用量が減り、ステロイドの副作用を軽減させることもできます。


これらの注射薬は、高額療養費制度などが必要になる場合もありますので、ご相談ください。


また、注射をうまく組み合わせることにより、ステロイドの使用量が減り、ステロイドの副作用を軽減させることもできます。



紫外線療法

【ナローバンドUVB・エキシマライト照射】

紫外線のUVBを照射する光線治療は、従来よりアトピー性皮ふ炎の付加的治療法として有効性が確認されており、保険適応にもなっています。


特に、ステロイド外用剤に反応しにくい場合や、かゆみの強い病変部や痒疹結節の部位に効果的です。



その他の治療法

以上が一般的な治療法になりますが、アトピー皮ふ炎に効果があるといわれているその他の軟膏や漢方薬治療なども、ご希望にあわせて行っておりますので、ご相談ください。



②普段からのスキンケア


アトピー性皮ふ炎の患者さんは皮ふのバリアが弱く、保湿成分が欠乏しているために乾燥肌で、アレルギー物質が侵入しやすく皮ふの炎症を起こす原因になります。


スキンケアによって皮ふが健康な状態に保たれると、さまざまな悪化因子の影響を受けにくくなります。


最近では、スキンケアをすることでアトピー性皮ふ炎患者さんに多い食物アレルギーを予防する効果があることも報告されています。


スキンケアについては、毎日の入浴・シャワーが重要です。


シャンプー・石けんは低刺激、敏感肌用を使いましょう。


体は強くこすらないようにして、泡立てた石けんで手で洗うようにしましょう(ナイロンや綿のタオルでこすらない)


シャンプー・石鹸は残らないように十分にすすぎます。


入浴後はなるべく早めに保湿剤を塗ります。



③日常生活における悪化因子の除去


アトピー性皮ふ炎の患者さんは、ダニ・カビやほこりのアレルギーを持っている人が多いためケアが必要です。


部屋をこまめに掃除し、ダニやほこりがたまりやすいじゅうたんなどはできるだけ避けましょう。


布団やベットは適宜、掃除機でダニやほこりを吸引します。


汗をなるべくかかないように、できるだけ涼しい環境づくりを心がけます(ただし、適度な発汗はアトピー性皮ふ炎の症状を良くすることもあります。運動後はシャワーを浴びましょう)


衣服は、木綿素材などの肌触りのよい衣類を着用しましょう。


ウールなどは皮疹を悪くさせることがあります。


洗濯の際は、洗剤のすすぎ残しがないように、すすぎをしっかり行うことが大切です。

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